至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎
2014年 01月 11日ストラディヴァリウス(略してストラド)とは・・・
17世紀イタリアの天才職人アントニオ・ストラディヴァリが製作したバイオリンで、約600挺が現存する。
・・・とありますが、アントニオ・ストラディヴァリの作品にはヴァイオリンのほか、チェロやヴィオラなども存在しています。
なぜ、ストラディヴァリウスは、ストラディヴァリウスたりうるのか。
ストラディヴァリウスはなぜ、美しい音色なのか。
これほどシンプルな問いに答えはいまだに見つかっていません。
この400年ほどの間、この謎に答えるためだけに、最新技術をつかった研究がつづけられ、その一部が番組では紹介されていました。
底板の薄さの均一性が大事とか、ある部分で容積なり、重量なりが、キッチリと二分されているとか、興味深い内容で、ヴァイオリンがCTスキャンにかけられている姿にはビックリ・・・。
そういった研究の甲斐あり、番組のラスト、完全にコピーされたというストラディヴァリウスは想像以上に本物に近い音色を奏でていた気がします。
そもそも、どうして「同じ楽器」をコピーしても、完全に同じ音色が出ないのか、ということを思われる人もいるかもしれません。
たとえば日本の歌舞伎の場合、ある俳優があたらしい役を演じるとき、その脚本を読み込み、自分の創意工夫をもって役作りをします。そこからさらに先輩役者から、ここはもっとこうやってもりあげて・・・など厳しい稽古をつけてもらいます。
それで先輩たちと「同じこと」をしていても、まったく違う印象の演技になるのですから、それに似ているかもしれません。
また・・・
今回番組では紹介されませんでしたが、木というものは、乾かしたあともだんだんと乾燥し、びみょうに反っていきます。
ですから今日、サイズ的に完全に同じものをつくれたとして、たとえば現時点で完成から400年ほどたったストラド(略称)と同じだけの、反り方を摸倣することは難しいでしょう。
この理屈でいえば、あと何百年かすれば、ストラドの黄金期は過ぎ去るとも考えられます。
さらいに不思議なことに楽器の形態が長い、短いなどするにもかかわらず、その音色には完全な共通性があるのです。
だから楽器のカタチではなく、ニスに音色の秘密がある・・・と考える人がいてもおかしくはない。ただし最近の科学検査で徹底分析したところ、はまったく普通の松ヤニとニスが使われているだけだったそうです。
人間の知見では計り知れない物質・・・たとえば悪魔の血でも混ぜたんでしょうかねー(笑
ただ、ストラドは完成当時から伝説の名器といわれていました。
それはストラディヴァリのような名職人がほかに少なかったということも多いに関係しているようです。これは番組で紹介された知見ですが、面白い意見だった。
さらにストラディヴァリの息子たちにも技術はキチンと継承されなかったため、奇跡の名器の謎は今日にいたるまで、まったく解き明かされていないのです。
今回興味深かったのは、楽器と名演奏家の関係。ぼくも好きなヴァイオリニストである渡辺玲子さんが登場して、バッハの無伴奏作品の一節を弾くシーンがありました。いっさいの響きを吸収してしまう、つまり音楽にとっては砂漠のような、あるいは地獄のような無響室で弾いても、ストラドの場合、ちゃんと聞こえるどころかちゃんと渡辺玲子のバッハになってるのが驚きましたね。
技術というものは一度失われると二度とは取り戻せないものなんですね。
それがいちばん感慨深い印象でした。