7月にはヘレン・シャルフベックの展覧会に行ってきました。
母も行きたいとのことだったので、上野駅から「東西めぐりん」なるコミュニティバスにはじめて乗りましたが、町並みを見るのも面白かったです。
NHKの日曜の八時の番組で見た絵があまりにも印象的だったので急遽、スケジュールをとりまとめて上野まで出かけてきました。その後、9月いっぱいまで異様なスケジュールが続いており、レビューを書いていないことに気付きました。
ユーロ圏ではコインになるほどの有名人物ですが、日本ではムンクと同世代の北欧の画家、もしくは無名…というようなヘレン・シャルフベック。しかし、本当に上手い画家です。
北欧圏は夏がおわると一日の半分以上が闇にとざされる地域なので、光をとりわけ大事にする習慣があります。とくに若き日のヘレンの絵にも「光」がいつくしむように描かれており、それがまず印象的でした。
さらに本当の意味での造形美がヘレンの画の魅力です。「この人がなぜ美しいのか」を、モデルの目鼻立ちのバランスなどといった「表面的な理由」(だけ)ではなく、「魂」に求めています。魂の美しさが滲み出るような表現……それは彼女の高い描写力をもってして、はじめて描ききれたものです。それだけの力量がヘレンにはあります。
御裁縫をするヘレンの母の姿を描いた一枚。
「働く女性」を描いた一枚。
そんなヘレンの絵はものすごく写実的だった十代、二十代のころ。だんだん簡略化され、過度なまでにシンプルなものとなっていきます。老いた自分の顔を描くことにこだわったヘレンを「自分の老いと死を客観的に見詰めようとした」…というNHKの番組の説明も正しいのでしょうが、老いた自分の顔=時代の荒波にも流されなかった本当の意味でのじぶんらしさや個性を描くことに関心が移っていった結果なのではないか…と僕などは感じました。晩年の肖像画には、光を描くというより、対象自体から微光を発せられているかのような造形美を感じました。海辺で見る丸くなったガラスや石、乾いた流木のような美しさと同質でした。
かつての代表作をシンプルに描き直す、リメイクなど、面白い挑戦もしています。
晩年のヘレンの作品は、すばらしくスタイリッシュでクールでした。そしてに微かなユーモアさえも感じさせるのです。
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(最晩年の自画像)