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1Q84の音楽

1Q84の音楽といえば、ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」だと思うんです。



 冒頭に音楽が出てくるのは、前の超長編の「ねじまき鳥~」の時もおなじだったけど、

ロッシーニの「泥棒かささぎ」がその時は使われてました。

でもこれは、1Q~とはコントラストを描くような使われ方。



巻の名前にもなったけど、これは音楽そのものが持つイメージというより

曲名のおもしろさで使われてたと思うんです。「羊男的」な感じで「何ソレ」って感覚をあおって

面白いでしょう。



主人公が、パスタ茹でながらロッシーニの「泥棒かささぎ」(の序曲)を聞いてる

=気楽な音楽を、クラウディオ・アバド(・・・というすごく華麗な指揮をするけど、

マニアにとっては「華麗なだけで表層的」なんてコトさえもいわれる指揮者に、)

わざわざ演奏させてる・・・ところでも、「気楽な午後」なのを強調してるわけです。

いうまでもなく、ロッシーニも美食王だったりして、クラシック音楽の中では、いくぶん

「軽い」「ライト」な地位を与えられてる音楽家です。



ま、リラックスした時間に、毒のないお気楽な音楽を聴いてるのに、一本の電話から奇妙な世界に

ひきずりこまれる・・・という王道の村上的展開を演出しようとしたものだったのでございます。



それにくらべると、シンフォニエッタは「1Q84」の序曲であり、その世界の不穏さ、えたいのしれないパワーを

象徴するような音楽になってたと思います。








そもそも村上作品には、これまでもクラシックも出てきてましたが、これまでオールドジャズの名曲が登場したりしてそのほうが(あいまいな記憶しかないけど)、印象的だったんですけどね。

クラシックが存在感を持つことはあまりなかった印象が個人的にはあります。



本作「1Q84」は、これまでの村上作品の系列とはかなり違う所に位置する作品として、

音楽の扱い方にも、若干だけど大きな変化があったような・・・気がしました。



さて、「シンフォニエッタ」は、もともと国民体育祭的なイベントのために作られた曲・・・

としか覚えてなかったんだけど、調べたところ

当初、軍楽として構想されて、体育祭のファンファーレ的な音楽として演奏された曲

みたいですな。



余談ですが、ヤナーチェクには「グラゴルミサ」という(シンフォニエッタ以上の内容を備えた)

代表作があります。

さらに余談ですが、jこの曲は古代チェコ語の経典を使っています。フツーのミサ曲で使われる

ラテン語を使ってないので、よけいに神秘的な響きを生み出しています。



まぁ、リアルに演奏はほとんどされないんだけど(オーケストラ+合唱という大編成で、さらにパイプオルガンも使うから、お金がかかる。そのわりにはレアな曲だからお客さんが集まらない・・・)、



もっと「1Q84」の2巻以降に登場する「森の奥へ」

という要素を感じる(どこか東洋的で)不思議な響きの音楽もあるので、ご紹介させていただきやした。



「森の奥」はホントの森というのではなくて、基本的に、表層はシンプルでも裏側は込み入ってるっていうことのメタファーですが。



まぁ、いずれにせよ、全編のイントロダクションとして選ばれたのが「シンフォニエッタ」なんですよね。



この曲のティンパニを、(演奏経験など、ほぼない)天吾が演奏した・・・という下りまで出てきますが、

これはちょっとアレだとは思った(笑



とくに毎日練習してない(っぽい)エヴァンゲリオンの碇シンジ

バッハの無伴奏チェロ組曲を達者に演奏するのといっしょくらい、

無理のある設定だとは思ったけど(笑



ティンパニってホントはオーケストラの心臓で、第二の指揮者ってポジションにある

楽器だからもしそういうことが出来るのなら、数学の才能やら柔道の才能よりも

スカウトの人が飛んでくるハズです。



あと、個人的に興味深かったのは、バッハの「マタイ受難曲」の一節を(メロディよりも

歌詞を暗記している)「ふかえり」が歌う・・・というシーン。

具体的にはその曲って、これ、です。

もしかしたらふかえりの声はアルト、なのかもね。



こちらの力作の『1Q84プレイリスト』(ホントにすばらしい試みですネ)

では、いろんな便宜上、冒頭のド迫力の合唱曲からはじまってますが、

「マタイ」って全部が全部そういう曲ばかりではないんです。

なお、↑のプレイリストの「マタイ」は、著作権切れてる音源といえば

メンゲルベルクが指揮したやつだったと思う・・・。



メンゲルベルク版のマタイのばあい、

ナチスがオランダに攻め込んで来る前の前夜だかに録音されたという

色んな意味で歴史的録音なんで、曲の途中ですすり泣きが聞こえたりします



・・・また脱線いたしましたが、



ただ、これもマタイのメロディというより、ドイツ語の歌詞をふかえりが

暗記しているというところに重点がある引用です。



「平家物語」の一部を朗唱する場面と同列に扱うべきモノであり、

言葉に対する感性が、フツーの人とは「ふかえり」がいかに違うか、

「ふかえり」の特異な才能の一端を強調するための演出道具として

マタイが使われたにすぎない・・・っぽいのが残念ですけども。



本作で引用される、プルーストみたいに(「失われた時をもとめて」)、音楽ひとつひとつに

ふかーーーい象徴的な意味を込めたものではない、と自分は思います。





・・・とクラシック好きなもんで、色々書いてしまいました。。





by horiehiroki | 2010-09-08 23:13 | 読書