人気ブログランキング | 話題のタグを見る

青鞜の時代

馬場清子さんの本「青鞜の時代」を読んでいます。岩波新書。



ここまでだけ読むと非常に堅苦しい印象があるかもしれないけど、

自分も少し「乙女の日本史 文学編」で書いたように、

「青鞜」って(アイドルみたいに!?)第一期・第二期・・・とで

まったく雰囲気がちがいます。



「新しい女」という、一枚岩的なイメージでとらえられてる「文化」も、世代やメンバーの加齢(成長?)によって、おそろしく変化してくるのが興味深いんです。



一期生の代表格たる与謝野晶子(1878年生まれ)が

1910年頃に流行った「男性と並んで歩いても、ものおじしない」

若い女性のあり方に対し、

「何というあさましい」(原文ママ)という言葉を浴びせる

変化を見せているのです。








当時、与謝野晶子は30代前半。 



ちょうど1910年頃、第二期生の中心人物・平塚らいてう(1886年生まれ)は

モラトリウム期間まっさいちゅう。

「青鞜」創刊はまだにせよ、すでに華やかな活動をはじめています。

漱石門下の小説家の作品に(ほぼ)実名で登場するなど、

いわば知的アイドルだったんですよ。



しかし、新しい女第一期生の与謝野晶子は、そんな第二期生のらいてうらの

生き様に 痛烈な違和感を感じていたようです。



その頃すでに与謝野晶子は「お母さん」としての活動をバリバリしていたんだけど、これは「自由な勉学と多くのおこづかいを許された」平塚らいてうの当時の生き方とは正反対!



子育てをしていくと、世間と闘ってばかりではいられなくなるのかもしれません。



ご存じ、与謝野晶子って、

「君死にたまふことなかれ」的な反戦思想の持ち主でもあるんだけど

わりとこの手の活動にはブレがありました。

最後は戦争に子供を送るのが女の義務!!!

というところにまで、考えが変わっていくのです。



23歳の時に出版した、あの

「やわ肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」

という情熱的な歌を含む「みだれ髪」。

この本に収められた官能的な名歌も後には自分で、

無難な表現に改作していったというエピソードもあります。



彼女の保守化は本物でした。

むかしは「やは肌の晶子」とよばれていたのに(笑




なお、文壇からの注目は高くても、与謝野家はひどく困窮しておりました。



 (ちなみに平塚らいてうは、青鞜を伊藤野枝に譲りわたすと、あとは

恋人・博史との「内的生活を重視」というか、

自分の考える(弱気で草食系という)理想のパートナー男性と

生涯、奥さんとかお母さんのキャラではなく

「ほこりたかいリベラルな令嬢」としての自己イメージ/キャラクターを

変更せずに生きていくことを選んでいきました→「乙女の日本史 文学編」の近現代文学の章、週刊歴女をご参照



与謝野晶子は11人の母として生きました(そして、家計を支える大黒柱でした)



子だくさんであることは、女性を保守化させるといえば、それは

必ずしもそうではない。



生涯アナーキストだった・伊藤野枝も子だくさんで

何回も結婚し、7人も子供を産んだけど、

それは恋愛のすえの妊娠・出産だった。

そして心残りはありながらも、子供をあずけてしまい、

女として活躍しまくりました(暴れたともいう





それに対してあくまで

与謝野晶子は、与謝野鉄幹(という、だんだん売れなくなっていく歌人・詩人)の妻であるという

生き方をつらぬきました。亭主がダメならアタシが詩歌だけじゃなくて

「源氏物語」の日本初の現代語訳でもなんでもしてがんばる!

みたいな。



出版直前に、関東大震災がおきて、翻訳原稿が全部やけたんだけど

それでも、また最初の「桐壺」から翻訳しなおす!という

驚きのガッツでがんばれたんです。

これはこれで、立派な新しい近代の女性の生き方だと思いますが、

あくまで母であり、妻である。

そこにプライドの源泉があることが、伊藤野枝とは違ったんでしょうね。









与謝野晶子は、自分の子供によませたい童話がないので、自分で作ったりもしています。

でも、伊藤野枝の童話って想像もできませんし。



結婚、出産、育児、そして仕事・・・ 色んな違いが「新しい女」の中でもあったんだ、と。

わりとフェミニズム的な文脈で多くとりあげられ、わりと一般の読書人が手をつけられない

イメージがあります。

しかし、色々読み解くとおもしろいテーマです。



日本近代の文学・文化についての本を

作っていきたいと漠然と思ってるんで、その中でいわゆるフェミニズム的な何かとか

「近代日本、女性の懊悩」・・・!! といった、既存の視点とは違う側面から、

彼女たちの青春について、色々と捉えたいなぁ。





当然ながらも、やっぱりこれは興味深いテーマです。

by horiehiroki | 2010-10-01 01:41 | 読書