ピアノの歴史

音楽は自分にとってかけがいのない存在です。

最近は不愉快なことも多いのですが、夜明けにきく音楽はそんな自分の心に寄り添ってくれますね。

小倉貴久子さんの著書「カラー図解 ピアノの歴史」を読んでいます。


誰でもピアノの音色といえば、「あの音ね」と思い出せるほどだと思います。
しかし、ピアノがわれわれが想像する「あの音」になったのは、実はたかだか20世紀も後半になってから。

これ、たぶん19世紀か、20世紀はじめくらいのピアノだと思うんですが(弾かれてる曲はクラシックではないですが)・・・ずいぶんイメージ違うとおもいません? ピアノは弦を叩いて音を出すんだけど、中ー低音部あたりはギターみたいなコクのある音色です

それ以前のピアノは、「あの音」とはまったく違う楽器でした。
音が違うということは構造も違うということ。
たとえば、19世紀のショパンが喜んで弾いていたピアノ(プレイエル社のピアノ)は、鍵盤をいちど落として、音を鳴らすと、もう一度完全に元の位置に戻るまで、次の音が出せない作りになっていました。

・・・そもそも、そんなピアノってどんな音がしたんでしょう?

という疑問に写真と素敵な演奏が入ったCDとで答えてくれるのがこの本です。
小倉貴久子さんのことは、この古い時代のピアノによるショパンのCDで名前を知りました。
ベートーヴェンやシューベルト、モーツァルトの、そして彼らの時代に使われていた楽器による、小倉さんの演奏を聞いていると、いろんなインスピレーションがわいてきます。

ショパンはピアノの詩人ともよばれ、ロマンティックな作風で知られますね。現在のピアノの音色にぴったりだと思っていたんだけれど、19世紀のピアノで弾いても、・・・・最初はともかく、聞き続けていくと、そんなに違和感がない(小倉さんが才能のあるピアニストだからともいえるが)。

→小倉さんの演奏

一方、ベートーヴェンの曲は、今のわれわれが想像する「ベートーヴェンの音楽でございます」というような表情で弾くことは、すくなくとも昔のピアノでは不可能だと思いました。
これまで、何回か、19世紀はじめのピアノで弾いたベートーヴェンのCDを聞きましたが、あまり感心したことがなかったのですね。それは、今のベートーヴェンの像を、むりやり、19世紀はじめのピアノでも再現しようとしているから。

この演奏は、リストがピアノ用に編曲したベートーヴェンの英雄を、19世紀に活躍した、ピアノ製作者シュトライヒャーのピアノで弾いてしまってるという、意欲的な動画です。

これは1846年に出来たというピアノですから、1811年のリストが三十代のころ、名ピアニストとして人気を博してたときのピアノなんですが・・・・こういう音が、当時の人々がピアノの聞いて思い浮かべる音だったんですね・・・

えらくシンプルです。今のリストの演奏がいかにコッテリした味付けをされたものか、想像もつきません。

これとおなじようなことがベートーヴェンにもいえます。

「苦悩から歓喜へ」とか、哲学的とか、われわれが抱くベートーヴェンのイメージは、むしろ20世紀のピアノのためにあるんだなっておもいました。

この本に付属のCDできく、小倉さんの演奏によるベートーヴェンの「月光」は、すごく自由で、なおかつエッヂが効いた面白い演奏。かといって、精神性がないというわけではないんです。精神性のチャンネルが違うというか・・・・

モーツァルトの場合もそうなんですが、ショパンも、今、目の前にある楽器からいかに響きをうつくしく取り出すかに最大の関心があり、リストやベートーヴェンは、理想の響きを求めてやまなかったタイプの作曲家といえると思います。付属のCDを聞くかぎり、シューベルトは両者のちょうど中間くらい、かな。

まぁ、後者のあくなき(ムチャともいえる)理想探求心が19世紀を通じて、ピアノの進化に貢献したのですけれどね・・・
by horiehiroki | 2012-06-07 07:02 | 読書