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世界で一番美しい果実図鑑 、 クリスマスの文化史

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「世界で一番美しい果実図鑑」は面白い本でした。図鑑というより写真集ですね。そして文章が楽しい。文系の人間にも非常に興味深い内容。

なかでも「時代錯誤植物」という概念にはドキッとしました。

オーストラリアは1万五千年ほど前に全動物の96%が絶滅したそうです。理由は不明。でもこの手の大量絶滅の原因には、隕石衝突などがきっかけとなり、これまで当地には存在しなかったウィルスによる感染と病死が考えられるとか。

「時代錯誤植物」とは、その時に絶滅してしまった動物が、その植物の種の攪拌をメインで担っていた植物ということ。ぶっちゃけ、ある植物の果物はゾウに食べられ、その糞に種が混じって排出された場合のほうが発芽率が7,8倍に増えるそうです。「時代錯誤植物」は、ほそぼそと命をつなぎつつ、絶滅してしまった動物をその植物はずーっと待ち続けてるんですって。もう二度と来ないのに・・・という。

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なんとなーく 「おおきな木」 という絵本を思い出しました。


もう一冊は「クリスマスの文化史」。白水社刊。

こちらは歴史文化系ですが、仕事抜きで楽しめる本でした。もちろん有益な知識も入ってましたが。なによりビックリしたのは、現代日本で現役のクリスマスカードの「伝統」。これも日本でヴァレンタインに配られるチョコレートと同じくらい、企業のキャンペーンが効を奏した結果、現在の形になったということ。クリスマスツリーにしてもなんにしても、すべて企業の広告戦略の末に「伝統」になったという物でした。欲と金のニオイがするよねーという話です。

19世紀初期までのヨーロッパでの手紙(郵便)事情は、トゥルン・ウント・タクシス侯爵の独占する郵便事業と郵便馬車によって、しかもかなり高額な経費をかけて届けられていました。ところが革命がおきはじめると、この手の独占企業に疑問の声があがり、郵政民営化が成し遂げられたのだそうです(笑

そしての19世紀半ば以降に郵便事業と、紙屋さんが結託したのが、クリスマスカード(ビジネス)。

もともとはドイツ文化圏で、子どもや孫がおじいさん、おばあさん、おとうさん、おかあさんに、感謝の気持ちを定型詩にして、高価な特別な紙に特別な書体で書いて渡した・・・という伝統があり、これ、子どもたちにはかなりストレスだったそうな。それゆえ印刷された豪華なカードが選ばれるように(楽だし)。交通網の発達で、ヨーロッパ中の色んな所に子孫は暮らすようになってますから、郵便事業も使われます。

なお、20世紀初頭くらいまでのヨーロッパでは、現在よりもよほど多数回の郵便配達がありました。ウィーンでは郵便は一日に5-7度も配達があったようです(この前のキネ旬に載せられてたクローネンバーグ監督のインタビューより)。今の電子メールなみ。だからユングとフロイトなどは大量の往復書簡を残せたんですね。あれは彼らにとって携帯メールなわけだ。あと手紙で思い出すのはマルクスとエンゲルス。すごいなぁ。

あとトゥルン・ウント・タクシスっていうといかにもドイツっぽいけど、源流はイタリア系貴族です。
池田理代子さんの「オルフェウスの窓」にもたしか、城の一部が出てくる。

良い本でしたが、図像のキャプションに多少、あやしい所が含まれていた…ような。
たとえばアントワネットの姉のマリア・クリスティーネが両親ときょうだいのくつろぐ姿を描いてるんですが、その名前に、オーストリア大公って男性用の爵位がつけられてあったような・・・ まぁ細かい話なんですが。

ちなみにオーストリア大公って、プリンス・オブ・ウェールズなんかとちがって、(基本的に子だくさんな)ハプスブルク家の男子(おおぜい)がさずかる爵位なので、そこまで希少性はありません。ヴィクトリア女王が「あれはダース売りの大公」みたいなことを言ってた。


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ちょっと話がずれますが・・・

右端にいるのが、アントワネットたちの父親フランツ・シュテファンです。
当時はでかいカツラを被るので、髪の毛は坊主。もしくはかなりの短髪です。
ヘンデルなんかもこの手のボンネットみたいな室内帽を被る肖像画を描かせていますが、何でこんなの被るんだろうと思ってました。

でも今年みたいに寒く、しかも一軒家で生活してて、しかも髪がショートだと、アタマが冷たいということがわかりました(笑 ぼくも毛糸の帽子をファッションかねて被ってる場合も・・・。

どうして18世紀の西欧では巨大なカツラが流行ったか。そこにはもしかしたら寒さが関係してるのかもしれません。
by horiehiroki | 2013-01-20 05:27 | 読書