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いせひでこさんの作品

母親の勧めで、パリにすむ女の子が本を装丁する職人と出会う「ルリユールおじさん」という作品を読み、美しい絵、そして短いけれど的確に対象を描き出した文章にひかれました。

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その後、「チェロの木」という作品に触れ、深く感動したわけです。

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森と共にくらす三世代にわたる家族の歴史。そして主人公の男の子がカザルスを思わせる老チェリストと出会い、音楽への深い想いやチェロという楽器への愛という三つの柱・・・さらにはルリユール~でもそうでしたが「老い」というテーマも濃厚にかんじさせつつ、ふつう大河小説が扱う深い主題を、絵本というメディアで簡潔かつ見事に表現した作品でした。

こういう作品を生み出せる「いせひでこ」こと 伊勢英子さんは日本を代表する文学者だと思います・・・。

先日は、彼女の手によるさし絵がいくつか入る以外は、文章がメインの「マキちゃんのえにっき」、そして「グレイがまってるから」を続けて読みました。

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マキちゃん~ は・・・ あえていうとわりとシビアな話だなと感じました。
絵本や児童文学には二種類のおかあさんがいます。
現実にはほぼ御目にかかることのないくらいに、やさしいあたたかい、ふわふわしたお母さんです。
もうひとつは怒るけど、子どものことをちゃんと愛してるお母さん。
現実は圧倒的に後者のほうが多いはず。
マキちゃん~はマキちゃんが3歳から6歳くらいかな、彼女の成長を描く内容なんだけど、実際に伊勢さんの娘さんの一人がマキちゃんであり、絵や文章を描く仕事をしているおかあさんが伊勢さんを思わせるように作ってあります。
で、お母さんはマキちゃんも大事なんだけどアーティストである自分の人生も大切。
仕事のしめきりというものもあるけど、自分「が」描きたい絵、文章があるから、マキちゃんにはイイ子にしてもらって、早く寝てもらいたいんですよね。だからときどきドライな対応をしています。
でももうすぐ4歳で大きなお姉ちゃん、でもまだ3歳のマキちゃんはそれが寂しい。みぞおちあたりがズーンとつめたく感じる、なんて描写で始まるこの作品ですが、いわば心の涙であるそれが「おねしょ」として出ちゃうんですけども。

そうじゃない日も、いきなり起きて!!とおかあさんに布団から放り出され、その乱暴さにけっして保育園は嫌いではないけどいきたくないとグズったりするマキちゃんを、おかあさんは「お留守番してなさい!」と、ひとり家に置いて(笑)、おねえちゃんだけを連れていってしまうなんてシーンもあるんですね。
でもマキちゃんは一人になって自分の気持ちを整理し、おかあさんのことを理解しようとする。

ーーー多かれ少なかれ親と子の関係って成長してもこういうところがあり、子どもに知恵がつくと関係には逆転するところもありつつも、親が子どもを傷つけたり、その逆もあったり・・・と色々難しい所は多いわけです。
ぼくなんか親と同居してるんだけど、いまだに親の取説がわかりません。親もぼくの取説をもってないなんて感じるんだけど、そもそも取説なんて人間にはないのですねー。
マキちゃんシリーズを読むことで、わかりきっていたはずの親と子の関係にも、あらたな地平が開ける・・・というような、そんな感覚を持ちました。
こういうのは、おとなが児童書を読む理由のひとつでしょうね。
おとなが優れた児童書を読んだときにだけ与えられる知恵だと思うんです。

人間の子どものつぎは、ハスキー犬の子ども・グレイとの生活を描いたシリーズもあります。
これはおもしろいけど、見てるだけでたいへんそう!
伊勢さんは”他者”を受け入れられる器の大きな人なんだなぁ・・・。

白川静が自著の中で紹介している、昭和初期に書かれた中島竦(なかじましょう)著「書契淵源」という書物の一節によると「文」とは、人の形をかたどった漢字であることは間違いないといいます。

伊勢さんのトコロのふかさ、そしてひろさが、短いけれど深い世界に触れた文を備えた絵本に結実したんだなぁ、と思います。
最近の彼女の作品には「うけつがれる」というテーマがよく出てくるようです。
自分も何を次の世代にうけついでもらいたいのか。うけつがせることができるのか。そう言うことを考えてもよい年齢になってきたのかもしれません・・・

by horiehiroki | 2013-09-29 10:00 | 読書