人気ブログランキング | 話題のタグを見る

長生きは三百文の得

昨年の10月2日、日本を代表する俳優だった大滝秀治さんは亡くなられました。
そのほぼ1年後、この感想をブログにアップすることになる偶然にちょっとビックリしてます・・・。

「長生きは三百文の得」は、最晩年の大滝さんのトークをまとめた文を中心に、近年の舞台や稽古光景の写真などが載せられてる本です。大滝さんの顔が、北魏様式のホトケ様に見えてしかたありません。
もともと母親が読みたがりまして、取り寄せた本でしたが僕自身も興味深く拝読しました。
いや、ほんとに拝読っていったほうがいい内容なのです

長生きは三百文の得_e0253932_1231940.jpg



大滝さんは、深いことを、楽しく軽やかに語っています
死を目前とした老俳優の言葉・・・を期待してると肩すかしな部分も良い意味でありますね(笑
どこまでも自由自在で上機嫌な感じ。ここらへんがとてもよかったです。

大滝さんを妊娠中にお母さんが飲んでいたクスリのせいで、大滝さんは子どもの頃から髪の毛が灰色。でも誰もそれを理由にいじめることはなかった・・・という彼の言葉に、昔の日本人はえらかったんだな、などとわれわれは思ってしまいます。
しかし、すべてがすべて、そういうわけでもなかったんでしょうね。
学校の面接試験で(髪が灰色で、おそらく眉も灰色だったんでしょうか)、すこしでも息子の見映えをよくしようと考えたお母さんが、トイレで何本もマッチを摺って、そのススで息子の眉を描いたんだそうです。すると先生が大滝少年の顔を長い間無言で見詰め、あげくに「・・・・・・君は眉毛を描いてるの?」と言ったそうな。

お母さんは大滝少年を連れて面接室を飛び出ていき、泣いたそうです。

ほかにも若い頃の病気が原因で肺や耳などなどに色んな障害が残ってしまったそうです。これはぼく、初めて知りました。
稽古場では補聴器などを最初は使うけれど、その後は微かにしか聞こえなくても、生で向かいあうことが大事だという信念で外して演技をするそうです。

生で向かい合う・・・ってホントに凄いことだし、特権的なことだとおもうんです。
ちょっとズレるんだけど、この夏、よい機会をいただいて、母親と小林旭さんによる「夢コンサート」にいってきたんですね。浅丘ルリ子なんかも出演で。どっちかっていうとルリ子狙いなところが我が家にはありましたw アキラとルリ子って往年、映画なんかでカップルになることが多かった伝説の組み合わせじゃーないですか。

そもそも小林旭といえば、とにかく豪快、豪快、悪くいえば、例のハイトーンボイスの歌謡曲に象徴されるような大ざっぱなイメージがあったんだけど・・・笑・・・・・・実物の彼の姿を直接拝見すると、純粋にビックリさせられました。凄い人だなぁ、と。

実物の小林さんは知的な人で、もちろん豪快な男性でもありながら、頭の回転がすごい。今では若い歌手からベテランまで耳にイヤホンをつけ、歌詞忘れとか進行に失敗しないようにしてステージに立つものだけど、小林さんはいっさいそういうことしなくて、完璧にすべて、回すんですよ。
しかも、アドリブをいれつつ。
昔からのスターってすごいですわ。これくらいの能力とカリスマがある人以外はスターになれなかったんだとも思いますが。

脱線・・・でございました

大滝さんの耳が聞こえにくいという「属性」ですが、めんどうなことばかりではなく、自分にしか感じられない音楽の姿もあるはず、とベートーヴェンをはじめクラシック音楽を愛する大滝さんは語ってもいて、これが印象的でした。

ぼくにもかるい色弱の傾向(青とか緑系、らしい)があって、それでも昔は絵を描いたり、今はアートに関する仕事なんかもしてるわけなんですが。自分にしか感じられない色彩もあるのかな、と考えることもあります。


さらにこういう大滝さんの「属性」があり、そのことが逆に他の人とは違う、特別なオーラを彼にまとわせてるんですよねー。
晩年になればなるほど。
それを活かしたのが「くだらん!」のキンチョーのCMであり(w、この前TVで放送されてたのを親と見てたんですけど、高倉健がひさしぶりに主演した映画「あなたに」・・・などの出演作だと思います。

「あなたに」は、高倉健演じる主人公が、妻(田中裕子)の遺骨を彼女が生まれた九州の漁師町の海に流そうと、バンで関東から車旅をする映画です。
彼は刑務所にお勤めなので、休みが取れず、定年後に夢見ていた妻との旅行がこういうことになってしまったわけですが・・・この時、大滝さんは漁師の役で出演、大雨がふってるけれど、この日でないとダメなんです。なんとかお願いしたいと頼む主人公を前に、ハッキリと「それはできない」と拒絶します。
ところが嵐も行きすぎた翌朝、もう一度出直してきた主人公の顔を見て、「よし、船を出しましょう」と。
今日も船は出さないというかと心配してきた周囲は、あまりの変化に驚きます。
高倉健演じる主人公が「私の中に、まだ妻と(遺骨を海に流す形で)別れる意思が定まり切れていないことをあの方は見抜いていたんだ」と後で説明するんですねー。

けっきょく、どういう順番で撮影されたかはわかりませんし、順撮りの現場のほうが少ないとも聞きますが、その場その場をどう生きるか。どう存在するか。俳優ってせんじつめるところ、どう演じるかが問題ではなく、どう空気の流れを変えるか・・・ってことなのかなって想像します。

それほど、夜と朝での大滝さんの雰囲気の違い、存在感の違い、まるで絵の具を変えたかのように、変化がハッキリと伺え、すごかったんですよね。
こういう文をぼくが書いてるのも、大滝さんが好きな俳優としてあげる中に、ローレンス・オリィエなどに混じって高倉健が入ってる所に驚き、映画の例のシーンをハッキリと思い出せる自分がいたこともあったからです。

演技というものに興味のある方はぜひ読んでみてください。
by horiehiroki | 2013-10-03 10:56 | 読書