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「花燃ゆ」最終回…

先週、ついに「花燃ゆ」が最終回を迎えました。
ネットで「ドレスで光の世界!未来へ王手」
という奇妙な日本語のサブタイトルがすこし話題になったからか、
視聴率は12.4と年間平均をすこしだけ超えました。
もともと開始直後から鹿鳴館で踊って未来への希望を歌い上げて終わり、
と最終回ありきでしたからね…
史実での文はもう中高年なんですが、ドラマでは徹底して「文 ◎歳」
とかいう要素は排除していましたし(数字は記号です的な感覚でしょうか)、



鹿鳴館シーンでも

「群馬の生糸がフラーンスの生地をつかったこのドレスに?!  オホホホ~」
なんて会話が展開されてるソファー席の側に
ドーンと(たぶんフレンチ)チェンバロが置いてありました・


「花燃ゆ」最終回…_e0253932_02530631.jpg

……でもフランス本国にもあれだけの状態の楽器、当時、ありましたかね…という。
チェンバロは欧米では革命前の貴族社会を象徴するような楽器でして、
19世紀はじめ頃にはすでに流行遅れになって廃棄されるか、
物置にほうりこまれてた楽器が大半じゃないかと思います。

余談ですけど、1909年(明治42年)頃、指揮者で作曲家という
クラシック音楽の当事者そのものであった、グスタフ・マーラーが
自分の編曲した「(通称)バッハ組曲」のために、
「大きな音が出るスピネット」なるナゾの楽器をピアノ会社・スタンウェイに
用意してもらった……と手紙で書いています。

そもそもスピネットは家庭用の小型チェンバロのことですし、
画像のチェンバロよりもさらに小さな音しか出ないのに、「大きな音が出る」とはどんな仕掛けの
どんな楽器、しかもチェンバロと楽器構造がまったくことなるピアノの専門会社の
スタンウェイに頼んで用意してもらっているのは何故……とナゾがナゾをよぶ記述なわけです。
(この日に使われた楽器は残されてすらない。おそらくはピアノを改造したものだとおもいます。
ピアノの弦を叩くハンマーに金属のビョウかなんかを差しこんで、ソレッぽい音がするようにしたんじゃないですかね)

ようするにナニをいいたいのかというと、
マーラー自体が「バッハという古い時代の音楽を古いスタイルで
演奏したい」んだけど「古い時代の音楽の知識は20世紀初めの欧米の音楽家ですら
ほとんどなく、楽器自体もまともに演奏できるものがなかった」から、
プロの中のプロであるマーラー本人も
「なんとなくソレっぽいもんをつくってもらって、ソレをならして満足した」
程度だった……という感じなんでございます。

今回の大河に出てきた、日本の鹿鳴館時代はさらにそれ以前であろう、
1883年からのごく短い期間のことなので(以下略)

あのチェンバロに象徴的なように、
要するに「花燃ゆ」はこう描きたい!という
「見映え」最重視の映像がウリなんであって、
歴史ドラマとしては最初から作られてないんです。

「花燃ゆ」を見つづけた方が
何人おられたかしりません。
まぁね、このドラマ、自分も、親もアレをみていて
「一体ナニをいいたいんだろう?」
と疑問に思うことは多々ありました。
ナニをいいたいかどうかが問題ではなく、元来ならば
おそろしく血なまぐさい残酷な内容になるべきものを
明るく綺麗な映像をお届けするということにこだわって
あのドラマは制作されつづけたんですねぇ。
熱烈な支持もされないだろうけど、ソッポ向かれるような
事態になるのだけは避けたわけです。



歴史エッセイストとしての自分が花燃ゆの印象についてナニかいうとすると
ツボというものを完全に外して、えんえんとロングマッサージされつづけてる感じ。
……でしょうか。

途中からハッキリと気付かれたでしょうけど、
そもそも、チョンマゲ&キモノの人物が出てきてはいますが、
歴史的コンテンツとしてあのドラマは作られてないのですよ。

もし、あの素材をつかって、歴史ドラマとして、それれも女子ウケする大河として
まとめあげるとしたら……ということは、
拙著の「乙女の松下村塾読本」の中でやらせていただいたので、まだお読みでない方はぜひ
脳内で大河っぽく再生してみてくださいませよ。

大河といえば地元と連動するというのがこれまでの図式でしたが、山口編は
ともかく、ドラマの中盤くらいからロケの映像が
ほぼまったく出てこなかったですよね。
後半は「富岡製糸場」とタイトルしたほうがいいんじゃないかってなくらいに生糸押しでしたけど、
機材がオリジナルかな?と思えたほかは、まったく(多分)群馬ロケはなかった。
ぜんぶスタジオでの映像です。
ホンの上がりが遅かったのか、難航したのか……でもやっぱりすべて
制作陣のねらいだと思うんですよ。
「理想の見映え」が必要という。それが評価されるかどうかですけど、
歴史コンテンツとして制作しつつも、
最終回になればなるほど大河ファンにソッポむかれて
数字を堕としていった清盛よりは、
歴史的コンテンツであることをほぼ放棄してはいるが
大河ファンから清盛ほどは見捨てられなかった
(と数字的にいえる)花燃ゆは優秀だった……と
放送局的には結論づけられているような気もします…



by horiehiroki | 2015-12-17 02:44 | 大河ドラマ